「櫛」日本女性の黒髪を飾った美 江戸の粋と技術
櫛(くし)の歴史
日本の櫛の歴史は縄文時代まで遡るといわれています。魔除けとしての意味合いが長く続き、装飾を重視した女性の髪飾りとして用いられたのは江戸期に入ってからです。
私的にはなぜ、頭を梳かす道具であるところの櫛を髪飾りにしているのか不思議に思ったことがあります。野の花を摘んで髪に飾るのは納得できるのに、道具を髪に飾る?マリー・アントワネットの金髪にヘアーブラシが挿っていたら?おかしくないの???いろいろな文献をあさった結果、納得しました。
道具が美の世界を極めてしまった事実に平服です。そこまで高めていった櫛職人に拍手喝采します!!日本人ってすばらしいですね。
髪を結うための道具から細工を凝らした芸術作品へ
髪を髷(まげ)に結うための、汚れを取るための道具から、髷を安定させるため、髪に直に挿すようになりました。徐々に装飾性に目覚め、日常的に美しい物を身に付けていたい欲求から様々な意匠を凝らした櫛が作られるようになりました。手のひらサイズの世界。小さな美はそこら中に転がっている、気づく人は気づくということですね。
↑上の写真は骨董舎で販売している櫛たちです。それぞれに趣向を凝らした細工で見飽きません。額に飾ると小さな絵のようで存在感があり、見る者を惹きつけます。
櫛の素材は多岐にわたる
鼈甲(べっこう)、擬甲の牛角や馬爪(ばず)、黄楊(つげ)、竹、檀(まゆみ)、伊須(いすのき)、唐木、ガラス、珊瑚、瑪瑙(めのう)、象牙、翡翠(ひすい)、金工品、セルロイド(明治時代にドイツから輸入)など多岐にわたる。時代とともに、また自分だけのおしゃれにこだわる人々の要望とともに材質も増えていったのでしょうか。
さまざまな技法で女性の髪を飾る
【漆塗】 蒔絵や螺鈿(らでん)、象嵌(ぞうがん)
【金属】 金、銀、銅そのものや他金属の象嵌、透かし彫り
【ガラス】 カットグラス、ガラス絵、ビーズを施したのもの
江戸の粋と職人の技が生んだ美しさ
厳しい身分制度の中でも、裕福な階級から一般庶民、贅と美を競った花魁まで美しいと感じる心は同じです。日本髪の髷型も数多く創作され、身分により多少形も異なりました。余談ですが、面白いことに当時の流行は上流世界からより歌舞伎や花街から発生したことが多かったそうです。江戸は粋の文化発祥の地、武士階級でも影響を受けたようですね。
櫛の図案は「花鳥風月」、洗練された「幾何学模様」、趣向を凝らした「判じ絵」など、美しく楽しい図柄が多くの櫛に用いられました。手に取り、眺めているだけで日本人の美、技の素晴らしさが心に響いてきます。
【櫛について展示している美術館】
「櫛かんざし美術館」東京都青梅市柚木町
小澤酒造株式会社(澤乃井)が運営する櫛かんざし美術館の所蔵品は約4000点、櫛・簪・笄などの髪かざりのほかに、女性風俗を偲ぶ衣装、身装品、生活用品など幅広く展示している。
「田村資料館」京都府綴喜郡宇治田原町
室町時代から江戸期を中心に大正時代にかけての女性の衣装や調度・装飾品等が展示されています。