手のひらサイズの凝縮の美・印籠の見どころ
印籠と聞くとまず頭に浮かぶのは、テレビ番組「水戸黄門」の「控え居ろう! この紋所が目に入らぬか」と葵の御紋が入った印籠を見せつけ黄門様の正体を明かすシーンですが、皆さんはこの印籠が本来何に使用する物かご存じでしょうか?
印籠は中国の明時代に日本に伝わってきた物です。伝来時は、室内などに置かれた判子の朱肉を入れた箱の総称を印籠と言ったそうで、現在イメージする印籠の形状ではなかった様です。
この後、安土桃山時代になると武士の携帯薬入として印籠が使われはじめます。時代とともに様々な技法が発達し、江戸時代には印籠も個性的になります。特権階級の象徴として、お洒落な小道具として蒔絵を施した物など塗師の技術の高さと持ち主の個性が表された印籠が数多く製作されました。そのため印籠の評価が一層高くなりました。現代人が凝ったデザインの腕時計を身に付けるように、腰に提げる印籠はその人を表すファッションポイントだったのではないでしょうか。
明治時代になると武士階級が無くなった為、印籠の需要が無くなりましたが、手のひらサイズの凝縮の美は欧米人からの評価が高く、海外に輸出されるようになりました。そのお陰で日本の印籠が世界に通ずる名品として現在でも大切に残されている事はとてもありがたい事です。
今回は私どもで保存している印籠でその技術をご紹介したいと思います。
印籠の大きさやデザインはさまざま
印籠の段数や大きさも様々、段数の少ない物で2段、多いものでは6段の様式で作られた物も有るようです。
ちなみに、印籠は男性だけが持つ物では無く女物(めもち)と言われる極小のサイズの物もありました。
持ち主の個性とこだわりを感じる印籠
一般的な印籠は、松竹梅や家紋など入っている物やシンプルな朱塗や黒塗の物が多数ですが、注文製作された印籠は、構図や根付の取り合わせもさまざまで持ち主の個性やこだわりが反映されています。
上の写真を見るとこの印籠の持ち主は馬が好きだったのでしょう。印籠本体には金・銀・朱漆・切金の素材を使い裏表14頭の馬が描かれています。根付や緒締めまで馬になっています。ちなみに根付はただの馬ではなく。馬が瓢箪から飛び出そうとしています(瓢箪から駒)。薬入れにここまで個性を表現する遊び心が粋を感じますね。
印籠は技術の結晶なのですね
印籠は個性を表現するおしゃれな道具の代名詞といっても過言ではないでしょう。そこには、注文主の要望に応える職人の存在が欠かせません。1つの印籠を作るためには様々な職人(蒔絵師・金工師・根付師・彫刻師・他)の精巧な技術によってなりたっています。当店にあります印籠でご紹介できる技法をご覧下さい。
左 高蒔絵という技法を使い獅子を立体的に盛り上げ力強さを表現しています。
高蒔絵とは、まず漆にベンガラ等の別素材を混ぜ盛り上げた上に漆を平らに掛け立体的に表現する技法です。
こちらは高蒔絵と対称的に研出蒔絵と言う技法を使い松の静寂さと品の良さを表現した物です。
研出蒔絵とは蒔絵を施した上に違う漆を塗り、乾燥後に木炭や砥粉を使い最初の蒔絵面まで研ぎ出す・磨き出し表面は平滑になり強固にもなる技法です。
前者の2つは黒漆の下地で製作されていますが、こちらの作品は金の粒を全体に配した梨地という下地に蒔絵を施し、その上に切金を配し豪華絢爛な印象に仕上げた作品です。
切金とは金・銀の箔を細かく裁断した物を膠(にかわ)を使い貼り付ける技法で蒔絵とは違った豪華さを表現出来ます。
作者も印籠鑑賞のポイントです
一般的な印籠には作者の銘が入っている物は少ないですが、有名な印籠師が製作した印籠ですと作者の銘が入っています。
本体下部分に小さく銘と印が朱塗・蒔絵で入っている物が一般的ですが、黒漆で余り目立たないように入っている珍しい物もありますので、もし印籠をお持ちでしたら裏をご覧になってみたらいかがでしょう?
今回紹介致しました印籠はほんの一部ですが、海外コレクターも魅了する印籠の魅力を知っていただくきっかけになればと思います。
1つの印籠から持ち主の意図やデザインのこだわりに思いをはせ、職人の技術の高さや技法を知ったり、印籠をちょっと違った視点で見てもらえるだけで様々な楽しみ方をできるのではないでしょうか?
是非、実際にご覧になって楽しんで頂けたらと思います。