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蒔絵の奥深さ|静けさに宿る、技と時間


みなさんは「蒔絵」と聞いて、どのようなものを思い浮かべますか。
手に収まるほどの小さな作品から建築装飾に至るまで、その用途は実に多様です。

漆の表面に、金や銀などの金属粉を用いて多彩な意匠を描き出す蒔絵は、
作品をいっそう華やかに引き立て、その美しさに魅了される愛好家も少なくありません。

蒔絵の源流は奈良時代、正倉院に伝わる「末金鏤(まっきんる)」にさかのぼるとされ、
平安時代には貴族文化のもとで発展し、鎌倉時代には現在につながる基本的な技法がほぼ確立しました。
およそ400年前からはヨーロッパなど海外にも輸出され、「Maki-e」の名で知られるようになりました。

本記事では、蒔絵についての代表的な種類、
さらに高額査定が期待できるポイントについてご紹介いたします。 

蒔絵の種類

【平蒔絵/ひらまきえ】

漆で文様を描き、まだ漆が乾かないうちに金属粉(金・銀・真鍮・合金など)を振りかけて、図柄の表面に付着させます。
そのあと漆が乾いてから、上から再び漆を塗り重ねます。十分に硬化した段階で蒔絵部分を研ぎ出すことで、
蒔絵粉のきらめきが際立ちます。最後に磨きをかけて艶を整えれば、平蒔絵の仕上がりとなります

黒漆の地に、細やかな平蒔絵で草花があしらわれた一作です。やわらかくカーブを描く意匠枠の内側には、松の葉や実をつけた枝が、線描と金粉によって落ち着いた表情で描き出されています。周囲には葉文様が連なり、輪郭線と地蒔きのきめ細かな金が、黒漆とのコントラストの中で静かな輝きを放ちます。盛り上がりを抑えた平蒔絵ならではのしっとりとした光沢が、品のよい古雅な趣を感じさせる作品です。

【研出蒔絵/とぎだしまきえ】

蒔絵と地がほぼ同じ高さになる 最古の表現技法です。漆で文様を描いてから蒔絵粉を蒔き、平蒔絵と同様、蒔絵粉が剥がれないようにその上から漆を塗る工程を行います。その後全面に漆を塗り込み、硬化した後に絵や文様の部分を研ぎ出すことで、やわらかな印象の蒔絵を表現することができます。特徴としては蒔絵と塗り面(地)が同じ高さがほぼ同じになることが挙げられます。

研出蒔絵の技法で、波打つ水面と岩肌、そして満開の花を描いた山水図です。
金粉を全面に蒔き、漆で塗り込めたのちに丁寧に研ぎ出すことで、波のうねりや岩の起伏がしっとりとした光沢とともに浮かび上がっています。
ところどころに配された銀色の波頭が水しぶきのようなアクセントになっており、全体の柔らかなトーンの中に、静かな華やぎが感じられる仕上がりとなっています。

【高蒔絵/たかまきえ】

下地を盛り上げて文様に起伏をつけ、その上から蒔絵を施すことで、立体的な表情を生み出す技法です。
立体感を出したい部分に「高上(たかあげ)」用の下地となる漆を塗り、乾かしたのち、平蒔絵と同様の工程で仕上げます。
高上用の下地素材には、「銀上(ぎんあげ)」や「錆上(さびあげ)」があります。

▪️銀上:盛り上げたい部分に漆を塗り重ね、その上に銀粉を蒔き付けて定着させます。
銀粉を用いることで、経年により独特の黒変(くろへん)が生じ、その変化を楽しむとともに、
より立体感のある表現が可能になります。

▪️錆上:砥粉を水で練り、生漆を合わせたもので、くっきりと盛り上がった文様を作ることができます。
高蒔絵は下地を用いる分、研ぎの工程が増え、絵や文様以外の素地や塗面に傷を付けないよう細心の注意を払って研ぎ進める必要があるため、より高度な技術が求められます。

深い黒漆を背景に、ふっくらと盛り上がった菊花が印象的な高蒔絵の硯箱です。
丹念に塗り重ねた下地の上に、高蒔絵と平蒔絵を巧みに使い分けながら、
花弁の一つひとつまで丹念に表現されており、光を受けた金が穏やかに浮かび上がって、品格のある佇まいを見せています。中央には重なり合う二輪の菊が大きく配され、その周囲を秋草や葉唐草が流麗な線で取り巻いています。菊は長寿や不老長寿を象徴する吉祥文様として古くから親しまれてきた意匠です。

【肉合研出/ししあいとぎだし】

蒔絵のなかでも特に工程が多く、高度な技術を要する技法です。
高く盛り上げた部分(高蒔絵)と背景部分(研出蒔絵)に仕上げ用の漆を同時に塗り、
ひとつながりの面として研ぎ出していくため、両者の境目がわからないほど滑らかな仕上がりになります。
立体感と奥行きのある表現が可能で、山水図のような複雑な情景描写に用いられます。


高く盛り上げた岩の部分と、その周囲の研出蒔絵を同じ面で研ぎ出すことで、
金の輝きが面の中でなだらかに移ろい、谷筋や岩の起伏が自然な陰影となって立ち上がっています。光の当たり方によって、岩肌に散らした小さな金片が水気を含んだ石肌のようにきらめき、
山水図ならではの奥行きと重厚感をいっそう引き立てています。
高蒔絵と研出蒔絵の境目が感じられないほど滑らかな面のつながりは、
肉合研出ならではの見どころであり、高度な技術を物語るものです。近くで見るほど細部の仕事が際立つ、鑑賞性の高い蒔絵作品です。

蒔絵の技法

【梨地/なしじ】

梨子地とは、蒔絵の文様以外の地(背景)に金銀粉を蒔く「地蒔き」の一種です。 梨子地粉(平目粉をさらに薄く延ばして反り返らせた金粉)を用いる技法です。 仕上がりの細かなきらめきが梨の皮に似ていることから、この名で呼ばれます。 また、背景ではなく文様そのものを梨子地で表したものを「絵梨子地」といいます。 

【螺鈿/らでん】

夜光貝・アワビ貝・蝶貝などの貝殻を文様の形に切り出し、漆地にはめ込んだり貼り付けたりする加飾技法を「螺鈿(らでん)」といいます。螺鈿に用いる貝は、用途に応じて厚みを調整した「薄貝」と「厚貝」にわけられます。
「薄貝」は煮貝によって層を剥がしてアワビ貝や夜光貝を約0.1ミリ程度の薄さに仕立てたもので、青みを帯びたものは「青貝」とも呼ばれます。一方「厚貝」は、アワビ・夜行貝・蝶貝などが使われ、鏨(たがね)や糸ノコで文様に切り抜き、約1~2ミリほどの厚みにヤスリなどで形を整えてから用いるのが一般的です。


漆面に沈めるように嵌め込んでから研ぎ出す技法です。
表面がほとんど段差なくフラットに仕上がるため、滑らかな手触りを保ちながら、貝独特の虹色の光沢だけがふわりと浮かび上がります。写真のように、虫の羽根やワンポイントの意匠に用いると、黒や溜塗の中で色彩がさりげなくきらめき、蒔絵の金と螺鈿の青緑が美しく響き合うのが薄い螺鈿の魅力です。


文字の部分には、厚みをもたせて截ち出した螺鈿がはめ込まれており、
周囲の金地からふっくらと立ち上がるような存在感を見せています。
角度を変えるたびに、青や緑、桃色がゆるやかに揺らぎ、厚貝ならではの奥行きのある虹彩が楽しめます。背景には細かな金粉や截金風の螺鈿片が散りばめられ、豊穣な景色の中に一文字が印象的に浮かび上がる意匠となっています。

【毛打ち/けうち】

毛打ち蒔絵とは、平蒔絵で文様を仕上げたあと、その上にさらに細い線を描き加える加飾技法です。
葉の葉脈や花びらの輪郭、毛並みなど、ごく繊細な部分を漆で線描きし、そこへ金粉を蒔いて仕上げます。

艶やかな黒漆の地に、紅葉が舞うように散りばめられた毛打ち蒔絵の「棗」です。
一枚一枚の葉には、細やかな毛打ちがほどこされ、金の線が繊細に浮かび上がっています。
葉の内部には細かな金粉や色粉が蒔き込まれ、まるで秋の日差しを受けてきらめく紅葉のような表情を見せてくれます。手におさまりのよい端正なかたちに、黒漆と金のコントラストがよく映えます。

【針描/はりがき】

蒔絵粉を蒔いたあと、その面を針先など鋭い道具でひっかき、
細い線を彫り出すように表現する技法です。


【蒔絵工芸品の高額査定ポイント】


▪️保存状態
蒔絵の査定額は、汚れや傷、割れなどの状態によって大きく異なります。
ただし、自分で修理や掃除をすると、かえって傷めてしまうことがあるため、 なるべく手を加えずにご相談いただくほうが安心です。 

▪️箱や付属品があるか
蒔絵の買取では、共箱や鑑定書などの付属品が揃っているかどうかも大きな評価ポイントになります。 特に箱書きや鑑定書が付いている場合、買取額が上乗せされることも少なくありません。 古い品物ではすべてが揃っていないことも多いですが、 残っている箱や付属品はできるだけ一緒に揃えて査定にお出しいただくことをおすすめします。 

▪️作家名の有無や制作時期など
作家名や制作年代も、蒔絵の買取価格を左右する重要な要素です。 銘がない作品でも、江戸時代以前や明治期など古い時代のものは高評価につながる場合があります。 蒔絵は日本美術のなかでも海外からの需要が高い分野ですので、お手元に気になるお品がございましたら、 一度、査定を受けてみられることをおすすめいたします。 


次の世代に繋ぎ、手放すことをご検討の方やご実家の整理で出てきたお品や、 長年飾り棚に入ったままになっている小箱、由来の分からない蒔絵の硯箱や重箱など、 「売るかどうかはまだ決めていない」「まずはおおよその金額だけ知りたい」というご相談も歓迎です。 銘の有無や汚れ、傷の有無にかかわらず、専門的な視点から丁寧に拝見し、 そのお品が持つ魅力や市場での評価をわかりやすくお伝えいたします。 蒔絵を愛する方と次の時代の持ち主とをつなぐお手伝いができましたら、これほど嬉しいことはありません。 

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

蒔絵のきらめきは、ただ華やかな装飾にとどまらず、漆を塗り重ね、粉を蒔き、研ぎ、仕上げる――
そうした職人の技と、気の遠くなるような時間の積み重ねによって生まれます。
そしてその品が人の手から手へと受け継がれていく中で、
持ち主の暮らしや思い出までも、
静かに映し出してきました。

蒔絵を改めて味わい、その奥行きに触れていただくきっかけとなれば幸いです。

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