鑑定士はこんな所を見ています
近年、お宝鑑定団や旧家の蔵を開けて査定する番組などが一般的になりました。似たような品物なのに、査定額に大差がつくことを不思議に思ったことはありませんか?
今回は、私たち鑑定士がどうやって鑑定額を決めているか、日本の陶磁器のスタンダードでもある伊万里焼を例に、鑑定・査定する基準として私が心がけている点をご紹介致します。
1、どの時代に作られているのか?
2、どんな技法・様式を使用しているのか?
3、図柄・形状が変わっているか否か?
4、国内向けか、海外向けに製作されたものか?
5、品物の状態はどのようになっているのか?
上記以外にも、様々な要素を考慮して鑑定・査定を行っておりますが、分かりやすい見方をご紹介させて頂きます。
1、どの時代に作られているのか?
伊万里焼の歴史は1610年代頃に始まったとされます。諸説ありますが有田で朝鮮の陶工たちによって開始されたという説が有力なようです。この頃に製作されていた物は初期伊万里と言い、素地が厚く、釉薬は生掛け焼成を使用している伊万里焼を指します。この頃は材料がふんだんに採れたため、藍(コバルト)の染付が綺麗な作品が残っています。
1600年代中頃になりますと、製陶技術が高くなり生掛け焼成から素焼きの工程が新たに加えられたり、色絵の技法が誕生し柿右衛門様式や九谷様式が出現してきます。この頃の特徴として、素焼きの工程が入る事により素地自体が薄くなり手取も軽くなっています。
2、どんな技法・様式を使用しているのか?
伊万里焼にも様々な技法があります。有名なものとしては柿右衛門様式と古九谷様式があります。まずは柿右衛門様式についてご紹介致します。
柿右衛門様式の作品でまず目を引くのは、繊細で躍動感溢れる線描きされた絵付けです。赤の絵付(赤絵)が柿右衛門様式の象徴とされています。また色絵の場合、濁手(にごしで)と言われる乳白色の肌も見分ける点になります。
古九谷様式をご紹介致します。古九谷様式の初期作品は赤・緑・黄の3色を使用して輪郭線は赤で描かれ、発色や定着性が悪い特徴があります。
裏面を見ると「福」の字が入っている物が多く見分ける一つの要素でもあります。
今回は有名な特徴をご紹介していますが、同じ様式でも違った技法で焼成されているものも有りますので、鑑定する上でそこが難しい所です。
3、図柄・形状が変わっているか否か?
次に構図による評価の違いもあります。伊万里焼で有名な図柄というと初期伊万里なら吹墨(ふきずみ)の技法を使って描かれた、兎・鹿等の構図がとても人気です。価格もその図柄になると通常の10倍する物もあります。次に柿右衛門様式は竹に虎図、後に作られた伊万里なら南蛮人の図といった物ならやはり普通の草花図などと比べても高い評価をされます。
4、国内向けか、海外向けに製作されたものか?
もちろん伊万里焼も産業として製造されたものなので、様々な需要に応じるべく様々な形状の器が登場してきました。
1600年代始めは大名などの上流階級層を中心に使用されていましたが、1700年代になるとオランダ東インド会社を通じて海外の需要が始まります。この時には金襴手(きんらんで)と呼ばれる金彩をふんだんに使用した豪華絢爛な作品が製作されました。西洋人が髭を剃る時に首に当てて使用する髭皿や、西洋の城などで飾る為に金属の枠をつけた花瓶など海外向けの製品が特注で製作されました。
海外に輸出され日本に再び戻ってきた品物を里帰り品と呼びますが、そういった希少品は評価が高く珍重されています。
5、品物の状態はどのようになっているのか?
どんな珍品であっても、バラバラになってしまった物や部品しか無いということでは評価は難しいでしょう。古い物なのでそういった傷がついている事は多々ありますが、品物の状態が良い物ほど評価は高いです。
焼物の場合、完品(無傷)の物とニュー(ヒビ)・カケなど傷がある物とでは評価が10分の1になってしまうケースもあります。そのくらい品物を痛めるという事は損失なのです。